六月大歌舞伎感想

 今月はありがたいことに色々とご縁に恵まれまして、全演目を観ることができました。歌舞伎を見始めて一年とすこしですが、こんなに観たのは初めてです。大変充実した一ヶ月でした。

 演目は義経千本桜から碇知盛「渡海屋・大初浦」「時鳥花有里」、いがみの権太「木の実・小金吾討死」「すし屋」、狐忠信「道行初音旅」「川連法眼館」です。まずは碇知盛からのそのそと。あらすじも書いた方がいいですよね。

 碇知盛は、壇ノ浦で死んだとされていた知盛や安徳帝が実は生きていて、西国に落ちのびようとしていた義経を討ち取ろうとする、という現代で言うなら所謂イフものの設定になっております。

 これに関しては元ネタである浄瑠璃の方を一度観たことがあったので、比較ができるぞとわくわくしておりました。観劇歴浅いくせに贅沢なことであります。最後はやはり義経に負けて、知盛は碇を担いで入水するのですが、浄瑠璃ですと飛び込んだあと岩陰から都鳥がひらひらと舞う演出になっておりまして、さて歌舞伎はどうなるんだろうと特にそこが気になって気になって仕方がありませんでした。

 やはり人が演じますから圧巻でした。海に沈む碇に繋がれた綱がひゅるひゅると先に海へ引きずり込まれ、最後には知盛もまた海へと沈んでゆくその表情が壮絶極まりない。浄瑠璃の方は波音や都鳥の鳴き声が聞こえてきそうでしたけれども、こちらはドボンという落ちる音が聞こえてくるよう。前者は人の死んだあとの静寂を、後者は人の死ぬ瞬間それ自体を表しているような。

 死人とされていた知盛が実は生きていて、しかし義経を討とうとする彼は真白できらびやかな死に装束を身にまとい死地赴いていくという筋立てですから、死人がもう一度死ぬという実はイフでもなんでもなかったと解釈することもできる、とかなんとかどこかの記事に書いてあったような、なかったような。とにかく死人が死ぬという奇妙な違和感は、この演目を魅力的にしているひとつなのでは、と考えたりします。

 イフものといいながら歴史をなぞるえげつない構成なので、もちろん平家側の者たちは安徳天皇義経に預けられる)を除き各々入水したり腹を切ったりだとかするのですが、知盛の忠臣である丹蔵の死に様がまた見事でして、ひらりと宙を舞うようにして入水していく散り様はとても死ぬようには思えないほどあっけなく、それ故こちらの心を掴んで放しません。これにて御免、くらいの軽さ。

 もとが浄瑠璃ですから、魂が入っているような人形が演じていたものを人間が演じ直すという点ですでに頭が混乱しているのですけれど、時々役者が人形のような動きをするので困っていました。猿之助のお柳が特に印象的です。人に見紛うような人形の動きをまねた人の動き、と字面からして意味がよく分かりません。そもそも知盛だって実は生きていた死人を人間ではない人形が人間のように動かして最後には生きているわけじゃないのに死ぬというわけの分からない構成になっているのだから、それをさらにひとが演じる時点でこちらにはただ享受する以外にやることがない。

 魂抜かれる演目でした。次は時鳥春有里。

 続きものですからその後の義経の話になっております。義経が道中で明神様に神託を下してもらう。踊りだ! 分からないぞ! と不安ではあったのですが想像以上に楽しめました。しかし覚えているのがとりあえず傀儡師(実はこれが明神様)の染五郎が面をとっかえひっかえしていたことと、さっき海にドボンしていた彼が義経に対して「義坊!」と呼びかけていたことくらいだろうか。

後輩のT氏(T氏これで三人目か……?)は梅玉さんがお好きなようである。今回は義経として出演なすってました。目元が特徴的だよなあという印象は抱いているのですけれども。七月は大阪の方で公演だそうで悔しい限りです。

 来月何枚ブロマイドを買うのだろうかと気が気でない。次行きます。

 いがみの権太は「すし屋」は確か吉右衛門がやっていたのを観たような記憶があります。でもまずは「木の実・小金吾討死」から。

 これまた実は死んだと思っていた維盛が生きていた、という設定の元に展開されてゆく演目です。その噂を聞いて家臣の小金吾と、維盛の妻とその子どもが会いに行く、というはなし。題の通り小金吾は討たれて死んじゃいます。

 で。死んじゃうのですがそれがまた薄幸美人というかなんというか素晴らしい。苦渋に満ちあふれる顔つきで髪を振り乱し刀を振るう様がまた美しい。これ以上書くと神経疑われそうなのでやめておきます……。とりあえず小金吾に全部持って行かれてしまった。イケメンが死ぬところが好きなのとT氏に漏らしたところ、忠臣蔵に誘われたので楽しみです。

 すし屋は猿之助演じるお里ちゃんがとてもかわいい。「おお眠。おお眠、おお眠おお眠おお眠」私も眠くなってきた。どんどん適当になっているので続きはまた明日。実は第三部は三回観に行きました。何も言ってくれるな。最高に楽しかった。